省エネ計算は自社でやるべき?外注とのコスト比較、トラブル実例と主要ソフトの選び方
2025年4月の改正建築物省エネ法施行により、原則すべての新築住宅・非住宅に対する省エネ基準適合が義務化されてから一定期間が経過しました。現在、設計事務所やゼネコン、デベロッパーの現場では、全棟計算による「業務的ボトルネック」と「外注費の肥大化」が深刻な課題となっています。 コスト削減や業務スピードの向上を目的に、省エネ計算の内製化(自社対応)を検討する企業も増えていますが、表面的なコスト削減の裏に潜む「見えないリスク」には警戒が必要です。
さらに、2030年に予定されているZEH・ZEB水準への基準引き上げを見据えた体制構築も急務です。 本記事では、設計者やプロジェクトマネージャー向けに、省エネ計算を自社で行うメリット・デメリット、現場で頻発しているトラブル実例、そして実務に直結する主要ソフトの選び方を解説します。
省エネ計算を自社で行うメリット

※ 建築物省エネ法 省エネ基準に基づく省エネ計算演習事例|国土交通省
まず、自社で省エネ計算を行った場合のメリットを解説します。
1棟ごとの外注費を削減できる
省エネ計算を外部の代行業者に委託した場合、一般的な戸建て住宅で数万円、マンションや非住宅(オフィスビル・商業施設等)の中大規模建築物となれば、数十万円〜百万円以上のコストがかかることも珍しくありません。 これらを自社で完結できれば、外注費を直接的に削減できます。年間数十棟から数百棟のプロジェクトを抱えるデベロッパーやゼネコン、組織設計事務所であれば、内製化による経費削減効果は数百万〜数千万円規模にのぼる可能性があります。
初期段階でのシミュレーションと提案スピードが向上する

外注の場合、どんなにスピード対応してもらっても、図面を渡してから計算結果が返ってくるまでにタイムラグが生じます。自社での省エネ計算なら、設計の初期段階で「この断熱材と窓サッシの組み合わせで、基準をクリアできるか」と、素早く検証できます。
間取りの微調整や施主からの仕様変更の要望にも即座に再計算でき、迅速に提案できるようになります。
省エネ計算を自社で行うことのデメリットと負担
省エネ計算の自社対応は、目に見えない負担増や業務効率の低下を生み出しかねないリスクをはらみます。
専門知識の習得に学習コストがかかる

住宅における外皮計算はもちろん、非住宅建築物における「モデル建物法」や、より詳細な「標準入力法」をマスターするには、高度で専門的な知識が求められます。複合用途建物のゾーニング設定や、最新の高効率空調設備の性能評価など、担当者がマニュアルを読み込み、実務レベルで使いこなせるようになるまでには、膨大な学習時間とトライ&エラーが必要です。
図面作成や打ち合わせといった通常業務と並行し、新たに専門スキルを習得する負担は計り知れません。業務時間外に学習せざるを得ないケースも考えられます。
頻繁な法改正とアップデートへの対応が負担

建築物省エネ法等の関連法規は、一度覚えて終わりではありません。国は2030年度までに、省エネ基準を「ZEH・ZEB水準」へと段階的に引き上げる目標を掲げています。これに伴い、計算プログラムのバージョンアップや評価基準の見直しが頻繁に行われます。 新しい断熱仕様や設備の評価手法を常にキャッチアップし、自社の設計仕様が次世代の基準に適合しているかを永続的にアップデートし続ける「メンテナンスコスト」が組織に重くのしかかります。
最新情報をキャッチアップし、自社の仕様が新基準に適合しているか確認する業務が永続的に発生する点を押さえる必要があります。
専任スタッフが必要となる可能性
省エネ計算は、スタッフが通常業務の片手間にこなせるほど、簡単な作業ではありません。専門的な知識と緻密な入力作業に対応する、計算専任者が必要となる可能性が高くなります。
雇用・配置にはコストがかかり、また省エネ計算の実務経験を持つ人材は市場でも限られます。「省エネ計算ができる人材がいない」という展開になることも、知っておいてください。
自社で省エネ計算を行った場合に想定されるトラブル例
自社で省エネ計算を進めたときに起こりやすいトラブル事例を、2つ紹介します。
(1) 入力ミス・計算ミスによる審査ストップと着工遅延

省エネ計算に不慣れなうちは、外皮面積の拾い落としや設備機器の仕様入力ミスが発生しやすくなります。中大規模建築物で必須となる「省エネ適判(適合性判定)」において、計算ミスや根拠資料の不備があると、審査機関からの厳しい質疑や図面修正のループに陥ります。省エネ適判済証が交付されなければ確認済証も下りず、着工はストップします。
ゼネコンやデベロッパーにおいて着工遅延は、テナントの入居遅れによる賃料収入の損失、オープン日の延期、さらには事業融資の実行条件に関わるなど、数千万円単位の損害や重大な事業リスクに直結する危険性をはらんでいます。
(2) 担当者の不在で業務が停止する
専任担当を置き、自社で省エネ計算を進めると、やがて省エネ計算の属人化が起きる場合があります。省エネ計算には専門知識が必要なため、他の社員がすぐに代わりを務めることは難しいでしょう。担当者の退職や休職によって、すべての申請業務が滞るリスクも想定しておくことが重要です。
主要な省エネ計算ソフトの特徴と選び方
省エネ計算の自社対応では、ツールの導入から始まります。ツールの特徴と選び方を、簡潔に解説します。
無料ツール(WEBプログラム)と有償ソフトの違い

建築研究所が提供する国のWEBプログラムは、無料で利用できます。したがって、導入コストはかかりません。
ただし、外皮面積の拾い出しから各設備機器の数値入力まで、一つひとつ手作業で行う必要があります。入力時のヒューマンエラーが起きやすく、実務の効率化という面では疑問符が残ります。
内製化を本格的に行って作業スピードを上げたいなら、有償ソフトの導入が不可欠です。有償ソフトは初期投資に数十万〜百万円単位がかかります。
代表的な有償ソフトの特徴
業務効率化を目的とした有償ソフトは、主に以下の3つのアプローチに分けられます。
- 独立型:特定の設計ソフトに依存せず、計算機能に特化したタイプ。
- 2D CAD連動型:2D CADデータから面積や部材情報を自動で読み取り、入力の手間を削減するタイプ。
- BIM連動型:ゼネコンや組織設計事務所を中心に導入が進むBIMモデルから、部屋の容積、外皮面積、設備情報などの属性データを直接抽出し、省エネ計算プログラムへ連携させる次世代タイプ。
省エネ計算有償ソフトの選び方
有償ソフトは、「自社で使用中のCADと連動できるか」に注目し選定しましょう。CADと連動させられれば、図面データから面積などの数値を自動で読み取ってくれるため、入力の手間を大幅に削減できます。
「複数のCADシステムを併用している」「計算だけできればいい」といった場合は、特定のCADに依存しない「独立型」の計算専用ソフトを検討してください。
また、法改正時のアップデート対応の早さやサポート体制、ヘルプデスクの有無などもチェックしておきます。
省エネ計算を自社で行う場合と外注した場合のコスト比較
省エネ計算を自社で行うか、あるいは外注するかの決定打にもなり得る、コスト面の比較をみてみましょう。
省エネ計算を外注したときの費用相場
一般的な木造戸建て住宅の省エネ計算を外注した場合、1棟あたり5万〜10万円程度のコストがかかります。1棟の省エネ計算が7万円の代行業者に、年間20棟分を依頼すると、省エネ計算コストが140万円かかることになります。
また、非住宅建築物の複雑な計算や、ZEHの補助金申請、BELS評価書の取得、長期優良住宅の認定手続きなどが加わると、数万円から十数万円の費用が上乗せされます。
自社で行う場合にかかるコスト
「自社の社員に計算させれば、コストはかからない」との考えは、正しいでしょうか。答えは、否です。
担当者が1棟分の計算、関連図面の作成、審査機関との質疑対応に数日間を費やすと想定し、担当者の「労働時間×時給(人件費)」を計算してみてください。1棟で数万円は簡単に超えるでしょう。
加えて、専用ソフトの初期導入費用や毎年支払う保守費用・アップデート費用も考慮する必要があります。
トータルコストで比較した時に、自社対応の方が外注した場合よりコストがかかっている、というケースも実は少なくありません。
【結論】設計士がコア業務に集中するなら「外注」がベスト
専門の計算部門を社内に抱える超大手企業であれば、完全内製化のメリットを享受できるかもしれません。しかし、多くの設計事務所やゼネコンの設計部では、常に慢性的な人手不足とタイトなスケジュールに追われています。 設計者が不慣れな省エネ計算や質疑対応に忙殺され、本来の価値である「建築デザインの洗練」「事業性の高いプラン提案」「BIMなどの新技術への対応」が疎かになってしまっては本末転倒です。
見えない人件費や属人化のリスク、法改正への対応負担(将来のZEB/ZEH基準対応含む)を総合的に考慮すると、省エネ計算は実績ある専門機関へアウトソーシングすることが、最も確実で経営合理性の高い選択肢といえます。
自社での省エネ計算に関するQ&A
「省エネ計算を自社で進めるかどうか」を考える際、よくある疑問にQ&A形式で答えます。
Q1.自社で計算したいが、全棟をやり切る自信がありません。
- ハイブリッド型(必要な時のみの外注)も効果的な手段です。
仕様が定型化された自社ブランドの規格住宅や小規模店舗は「内製化」してスピードを上げ、複合用途のビルや大規模非住宅、BELS・ZEB(ZEH)認定等の難易度・リスクが高い案件は「外注」するといった使い分けが可能です。一度にすべてを内製化しようとせず、自社のリソースと事業リスクを天秤にかけ、負担の大きい部分だけを外部の専門家に任せることで、最も効率的な業務バランスが見つかるはずです。
Q2.審査機関からの質疑対応も、自社で行う必要がありますか?
- 自社で省エネ計算をした場合、質疑応答や図面修正の対応もすべて社内で完結させる必要があります
専門的な指摘に対して根拠を持って回答するには知識と時間が必要です。質疑応答や図面修正が、設計士の精神的負担になる場合も考えられます。
省エネ計算の代行業者は、多くの場合質疑対応から図面の修正まで網羅しており、設計士の負担軽減にもつながります。
Q3. 外注すると、かえってやり取りに時間がかかりませんか?
- いいえ。専門家ならではのスピード対応に驚くかもしれません
省エネ計算の代行業者は、法改正にも対応済みで、複雑な計算にも精通しています。都度、自社で調べながら進めるよりも圧倒的に早く、正確な結果が得られます。
省エネ計算に必要な図面や仕様書を渡して待つだけで結果が届くため、社内での業務滞留も回避できます。
まとめ
省エネ計算を自社で行えば、表面的な外注費は削減可能です。しかし、ソフトの導入費や学習コスト、属人化リスク、そして設計士の時間を奪う「見えない人件費」まで合算すると、多くの場合で割に合いません。
設計担当者が施主への提案というコア業務に集中し、会社の売上を最大化するためには、専門家への外注が、確実で効率的な解決策といえます。
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