省エネ適合性判定で中規模非住宅の基準値が改正!対応策や小規模非住宅の今後を解説
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、2025年4月より原則すべての新築住宅・非住宅で省エネ基準適合が義務化されました。さらに建築物の環境性能の底上げを図るため、2026年4月からは中規模非住宅(300㎡以上2,000㎡未満)の省エネ基準が大幅に引き上げられています。
本記事では、設計者やゼネコン、事業主(デベロッパー)に向けて、2026年4月の基準改正が事業スケジュールや設計実務に与える影響と、手戻りを防ぐための対応策、2030年のZEB水準化を見据えた今後の展望について詳しく解説します。
2026年4月より中規模非住宅の省エネ基準が最大25%強化
2024年の大規模非住宅(2,000㎡以上)における基準引き上げに続き、2026年4月より中規模非住宅(300㎡以上2,000㎡未満)の省エネ基準も引き上げられました。従来の基準値(BEI≦1.00)から用途に応じてBEI≦0.75〜0.85へと、実質的に15〜25%もの省エネ性能強化が求められます。

引用:国土交通省「中規模非住宅建築物適合義務の省エネ基準が引き上げられます」
これにより、従来通りの標準的な設備や外皮仕様のままでは省エネ適合性判定(省エネ適判)をクリアすることが極めて困難となり、初期設計段階からの緻密な省エネ計画やコストコントロールが不可欠となっています。
省エネ適合性判定(省エネ適判)とは
省エネ適合性判定(省エネ適判)とは、建築物が省エネ基準に適合しているかを判定する制度です。
原則、省エネ基準に適合義務のあるすべての建築物が対象で、申請は所管行政庁または国が認めた登録省エネ判定機関に行います。
省エネ適判を申請し、適合判定通知書を交付されるまでの流れは次の通りです。

引用:国土交通省「適合性判定の手続き・審査の合理化について」
ここでゼネコンや事業主が最も注意すべき点は、「省エネ適判による適合判定通知書が交付されない限り、確認済証が発行されず着工できない」という実務上のルールです。 基準の厳格化により、審査機関からの質疑や計算書の差し戻しが増加傾向にあります。もし設計図書の不備や仕様変更で手戻りが発生すれば、全体の事業スケジュールに致命的な遅れ(工期遅延やそれに伴うコスト増)が生じるリスクがあるため、余裕を持った申請手続きが肝心です。
非住宅の省エネ基準値は?
非住宅の省エネ基準は一次エネルギー消費性能のみで、一次エネルギー消費基準(BEI)で算出します。
外皮基準(PAL)は適用されませんが、BEIの計算に外皮性能に関する項目があるため、実質的には非住宅でも外皮計算を行います。
BEI値の算出方法
非住宅のBEIの計算式は、次の通りです。
BEI=設計一次エネルギー消費量÷基準一次エネルギー消費量
設計、基準、それぞれのエネルギー消費量の算出方法は次の通りです。

引用:国土交通省「省エネ性能に係る基準と計算方法」
BEI値が小さいほど一次エネルギー消費量が少なく、省エネ性能の高い建築物だと評価されます。
建築物用途や規模ごとの省エネ基準値
非住宅の省エネ基準値は、建築物の用途や規模ごとに設定されています。
| 用途・規模 | BEIの水準 | |
| 大規模(2,000㎡以上) | 工場等 | 0.75 |
| 事務所、学校等 | 0.80 | |
| ホテル、百貨店等 | ||
| 病院、集会場、飲食店等 | 0.85 | |
| 中規模(300㎡以上2,000㎡未満) | 工場等 | 0.75 |
| 事務所、学校等 | 0.80 | |
| ホテル、百貨店等 | ||
| 病院、集会場、飲食店等 | 0.85 | |
| 小規模(300㎡未満) | 1.00 | |
2026年4月に基準値が引き上げられた中規模非住宅は、先行する大規模非住宅の基準と同一水準になりました。これにより、空調や照明、給湯設備のエネルギー負荷が大きい「病院等」や「飲食店等」においては、より綿密な設備計画とコスト調整が求められることになります。
2030年までには小規模非住宅もZEB水準に引き上げ予定
2024年に大規模非住宅、2026年に中規模非住宅の基準値が引き上げられましたが、2030年までにはどちらもZEB水準まで引き上げられる予定です。
小規模非住宅の基準も、0.80まで引き上げる方針が掲げられています。
【2030年度までに目指す水準】
| 用途・規模 | BEIの水準 | |
| 大規模(2,000㎡以上) | 工場等 | 0.60 |
| 事務所、学校等 | 0.70 | |
| ホテル、百貨店等 | ||
| 病院、集会場、飲食店等 | ||
| 中規模(300㎡以上2,000㎡未満) | 工場等 | 0.60 |
| 事務所、学校等 | 0.70 | |
| ホテル、百貨店等 | ||
| 病院、集会場、飲食店等 | ||
| 小規模(300㎡未満) | 0.80 | |
参照:国土交通省「中規模非住宅建築物の省エネ基準の見直しについて」
国は2030年度までに、新築される建築物の省エネ基準を「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)水準」まで引き上げる方針です。 事業主(デベロッパー)にとっては、基準のさらなる引き上げを待つのではなく、現在のプロジェクトからZEB Oriented水準(BEI≦0.60〜0.70)を目指し、BELS等の環境認証を取得しておくことが推奨されます。
環境性能の高いビルはESG投資の対象として高く評価され、テナント誘致の優位性や将来の不動産価値の維持・向上に直結するためです。
非住宅で省エネ基準を満たす省エネ設計3つのポイント
省エネ基準が引き上げられたことにより、従来通りの省エネ計画では省エネ適判をクリアするのが厳しくなっているのが現状です。
そこでここでは、省エネ基準を満たすために抑えるべき省エネ設計のポイントを3つ解説します。
① 空調・照明設備等の高効率化と容量適正化(最重要)
非住宅建築物において、エネルギー消費の過半数を占めるのが「空調」と「照明」です。そのため、BEIを下げるためには設備設計の見直しが最も即効性があります。過剰な能力の空調機を避け、最適な熱源負荷計算に基づく高効率空調の導入や、LED照明の細やかな照度計画(タスク・アンビエント照明など)を行うことが必須です。
② 断熱・日射遮蔽性能の向上(外皮計画)
空調負荷を根本から減らすためには、外皮(建物の外まわり)の性能向上が欠かせません。窓へのLow-E複層ガラスの採用、適切な断熱材の選定に加え、非住宅では夏場の冷房負荷を下げるための「日射遮蔽(深い庇やルーバー、ブラインドの設置)」が極めて有効に働きます。
③ 制御マネジメントシステム(BEMS等)の導入
機器の性能だけでなく、「どう使うか」も評価されます。人感センサーや昼光利用センサーによる照明制御、CO2濃度連動による換気制御、空調のスケジュール運転など、自動でエネルギー消費を最適化するマネジメント機能を取り入れることで、無理なくBEIを下げることが可能です。
非住宅の省エネ適判の注意点
非住宅で省エネ適判を受ける際に注意すべきなのが、申請書類や図書の不備による手戻りです。
非住宅の省エネ適判に必要な図書は、次の通りです。
・省エネ計画書
・各種図面(付近見取り図、配置図、仕様書、立面図等)
・各種計算書
・機器表(空気調和設備、照明設備、給湯設備等)
・仕様書(昇降機)
・系統図(空気調和設備、給湯設備等)
・各階平面図(空気調和設備、照明設備、給湯設備、昇降機等)
・制御図(空気調和設備、照明設備、給湯設備等) など
見て分かる通り、必要図書の数が多いうえ、専門的な知識を有するものがほとんどです。
そのため省エネ適判をスムーズにクリアできず、着工や竣工に遅れが生じるケースも少なくありません。
適合性判定通知書は、申請書を受理してから原則14日以内に交付されますが、修正や追加書類を要求される可能性を考慮し、1カ月前には準備を整えましょう。
非住宅の省エネ適判でよくあるミスと対応策
実際に省エネ適判の手戻りでよくあるミスと、その対応策を解説します。
設計者が必要な手続きを把握していない
まず申請を代理する設計者が適判の対象になる建築物を正しく理解していない、申請対象外の建築物の情報も記載しているなど、そもそものルールを理解していないケースがあります。
申請に係るテキストやマニュアルを熟考し、不明な点は所管行政庁等に確認しましょう。
Webプログラムの評価・入力ルールを理解していない
Webプログラムにモデル建物法を使って入力する際、評価すべき室が入力されていない、評価対象外の設備を入力しているなど入力ルールを理解していない場合、修正を要求されます。
各種マニュアルを読み込み、モデル建築物における必要な入力項目を理解しましょう。
申請図書に記載漏れや不整合がある
図面の方位に記載漏れがある、外壁面積で寸法拾いの間違いがあるなど、記載内容の不備でやり直しを求められる場合があります。
方位や寸法線を明記するのはもちろん、求積部分を着色して色分けするなど一目見て判断できるような工夫を取り入れるのがおすすめです。
図面と外皮計算書・Webプログラムで不整合がある
省エネ適判は申請図書が多く、図書やWebプログラムを照合した際に相違が生じてしまうケースがよく見られます。
外皮計算シートやWebプログラムへの入力時に数値の算定根拠も確認する、申請手続きを統括する担当者を決めて申請前に図書間の整合性を精査するなど、何度も整合性を確認できる体制を整えましょう。
省エネ適判をスムーズにすすめるなら専門家に相談を
前述してきた通り、省エネ適判に必要な書類は専門性が高いため時間や手間がかかり、負担を感じている設計士が少なくありません。
今後省エネ基準はさらに引き上げられ、省エネ計画も厳しいものになります。
時間をかけて準備した申請書類が手戻りしてしまうストレスを省くためにも、難しい省エネ計算や申請は専門業者へ外注することを検討しましょう。
非住宅の省エネ適判でよくある質問2選
ここでは、非住宅の省エネ適判でよくある質問を2つ解説します。
非住宅の省エネ適判でBELSを省略できる?
非住宅で省エネ適判と同時にBELSを取得する場合、省エネ計画書や適判通知書の写しを用いることができます。
ただし同一機関に申請する場合に限り、省エネ計画書とBELSの申請書を同時に提出、または変更等の際に軽微変更該当証明書の交付申請と共にBELSの申請書を提出するのが基本です。
省エネ計画書を用いると、BELS評価のために設計図書や計算書等を改めて用意する必要がないため、面倒な業務をひとつ省略できる点が魅力です。
非住宅の省エネ計算を簡略化する方法(モデル建物法)はある?
非住宅の省エネ計算において、住宅のような簡易な「仕様基準」はありませんが、計算の手間を大幅に削減できる「モデル建物法」という手法が存在します。 「モデル建物法」とは、国が用途ごとに標準的な室構成をあらかじめ設定しており、建物の外皮面積や設備機器の仕様を入力するだけで簡易に省エネ判定ができる仕組みです。
(※なお、300㎡未満の小規模非住宅向けにはより簡易な「小規模版モデル建物法」も用意されています)
各部屋の面積や設備を詳細に拾い出す「標準入力法」に比べて大幅に手間を省けるため、実務では広く利用されています。ただし、安全側(厳しめ)に計算される仕組みのため、BEIギリギリの案件や、BELS・ZEBなどでより高い評価を取得したい場合は、詳細な「標準入力法」を選択して数値を追い込む必要があります。
まとめ
2026年4月の中規模非住宅の省エネ基準引き上げにより、省エネ適判をクリアするハードルは確実に上がりました。さらに2030年のZEB水準化に向け、建築業界にはより高度な環境性能への対応が求められ続けます。
「適合通知が下りずに着工できない」「設計の手戻りで想定外のコストがかかった」という事態を防ぐためには、設計初期からの綿密な一次エネルギー消費量計算が不可欠です。 複雑化する省エネ計算や適判申請の業務負担を軽減し、本来のクリエイティブな設計や事業計画に集中するためにも、省エネ計算の専門業者へのアウトソーシングなど、効率的な体制づくりをぜひご検討ください。
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