ゼロエミッションとは?課題と具体的な取り組み、補助金情報などを解説
省エネや地球温暖化、木材資源などについて調べると、「ゼロエミッション」という言葉がしばしば登場しませんか。
ゼロエミッションは環境問題の解決に重要な指針を示す考え方で、建築業界とも無縁ではありません。
今回は、ゼロエミッションの概要や人類が直面する課題、達成のための具体的な取り組み、補助金情報などを解説します。
ゼロエミッションの概要
「ゼロ」とつくこともあり、何かの抑制を図る言葉であることはわかります。
具体的に、何を抑制しようとしているのでしょうか。
ゼロエミッションの概要を解説します。
ゼロエミッションとは
ゼロエミッションは、地球の環境問題解決を目指す考え方・アプローチの1つです。1994年に国連大学(UNU)の学長顧問に就任したグンダー・パウリ(Gunter Pauli)氏が提唱しました。
「エミッション(Emission)」は、放出・排出を意味します。排出された廃棄物そのものを指す場合もあります。ゼロエミッションは、人間の産業活動で発生する廃棄物を再利用・再資源化することで、最終処分(埋立)される廃棄物の量をゼロに近づけようとする考え方です。
ただ、産業活動において、排出物を出さないことは現実的ではありません。
そのため、ゼロエミッションでは、2つのアプローチで、実質的な排出ゼロを目指しています。
- ある産業から出た廃棄物を、別の産業が再利用する
- 廃棄物に付加価値を見いだし、利用し尽くす
→ 以上により、廃棄物の埋立処分量ゼロを目指す
提唱された当時は産業廃棄物の排出抑制に主眼が置かれていましたが、現在では地球環境の悪化につながるあらゆるものの排出をゼロにする、と広義でも使われています。
ゼロエミッションが重要視される社会的背景
国内の産業廃棄物量は、3億7,592万トン(2021年度実績)。業種別に産業廃棄物量を見ると、建設業は全体の21.5%を占める8,094万トンを排出しています。
産業廃棄物の環境への悪影響は、深刻であることは容易に想像できるでしょう。地球温暖化や大気汚染の一因となり、気候変動を引き起こして、世界的な食料不足につながるおそれも指摘されています。
地球の資源と埋め立て可能な面積には制約があります。産業廃棄物をゼロに近づける取り組みは、看過できない喫緊の課題となっています。
※ 参照:産業廃棄物の排出及び処理状況等(令和3年度実績)について|環境省
ゼロエミッションとカーボンニュートラルの違い
ゼロエミッションもカーボンニュートラルも「排出量をゼロにする」考え方に立脚しており、混同しやすい概念です。両者の違いを確認しておきましょう。
ゼロエミッションは「産業廃棄物の排出をゼロにしよう」という取り組みです。一方で、カーボンニュートラルは「温室効果ガスの排出量をゼロにしよう」という取り組みです。排出抑制を試みる対象が異なる点に、注意してください。
カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量そのものの抑制もしつつ、植林や森林管理などによる温室効果ガスの吸収も考慮します。排出量を吸収量で相殺し、全体でゼロにしようと考えます。
考え方は、省エネと創エネで一次エネルギー消費量収支の実質ゼロ化をめざすZEH・ZEBと似ています。
ゼロエミッションとリサイクルの違い
産業廃棄物を別の産業で活用したり、付加価値を付けて生まれ変わらせたりするゼロエミッションは、リサイクルといえるのでは?と考えるかもしれません。
ゼロエミッションとリサイクルの違いは目指すゴールにあります。
ゼロエミッションは、産業廃棄物の埋立処分量、つまり最終的にゴミになってしまう量の抑制をめざします。一方でリサイクルは出た廃棄物の有効活用がゴールです。
リサイクルは、ゼロエミッション達成の有効な手段の1つと考えて支障ありません。
ゼロエミッションの実現に向けた課題
提唱から30年以上経った現在も、ゼロエミッションは実現されていません。
どのような課題が実現を阻んでいるのでしょうか。
2つの観点から、ゼロエミッションの課題を解説します。
産業構造・エネルギー転換とコストの問題
ゼロエミッションは、地球環境問題の解決に向けたアプローチの1つです。
産業廃棄物の排出量抑制とともに、温室効果ガスも出さないよう努める必要があります。
ゼロエミッションの実現には、そもそも廃棄物を出さない産業構造への転換が必要です。同時に、再生可能エネルギーの主力電源化も重要です。
産業構造の転換も再生可能エネルギーの主電力化も、コスト面が実現を阻みます。
あわせて、利用技術が確立されていない再生可能エネルギー(水素など)の問題も見過ごせないでしょう。
廃棄物処理における新たな温室効果ガス排出の問題
ゼロエミッションでは、廃棄物の再利用が推奨されます。しかし、廃棄物の運搬や加工の工程に新たなエネルギーが必要となり、かえって温室効果ガスの排出量を増やしてしまうおそれが考えられます。
廃棄物を出す現場での再利用にも限界があり、廃棄物のリサイクルには容易には解決できない問題が伴います。
ゼロエミッション実現をめざすプロジェクト・取り組み
実現までの道のりは険しくとも、実際にゼロエミッションの実現に向けた動きも見られます。東京都と大阪府、長野県の取り組みを紹介します。
【東京都】ゼロエミッション東京
東京都は「ゼロエミッション東京」と題し、2030年までに温室効果ガス排出量を2000年比で50%削減、さらに2050年には温室効果ガス排出量全体を実質ゼロにするという、カーボンニュートラルに則った取り組みを実施しています。
ゼロエミッション東京は、都市活動に起因するあらゆる分野でのゼロエミッション化を促進しますが、ここでは建築分野に関連した項目を解説します。
太陽光パネル設置義務化
東京都は要件を満たす新築住宅を対象に、太陽光パネルの設置を義務づけています。太陽光パネルの設置が必須となる住宅要件は、以下のとおりです。
・延べ床面積2,000m2未満
・住宅トップランナー制度等の対象事業者が手掛ける新築住宅
なお、既存住宅は対象外です。また、日当たりや立地等の条件が太陽光発電に好ましくない住宅も対象外となります。
詳しくは、「太陽光パネル設置に関するQ&A」をご覧ください。
省エネ・再エネ
ゼロエミッション東京では、建築物の省エネ化や再生可能エネルギーの活用も見込まれています。以下は、2025年に実施されている施策の一例です。
・窓やドアの高断熱化による、家庭における熱の有効利用促進
・太陽熱利用システム・地中熱利用システムによる、家庭での熱の有効利用促進
・家庭の太陽光発電システムによる電力の自家消費拡大
・中小規模事業所の省エネ型換気や空調設備の導入を支援
【大阪府】ゼロエミッション車の普及促進
大阪府はゼロエミッション車の普及を促進しています。ゼロエミッション車(ZEV)は走行時に排出ガスを出さない車です。電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)、プラグイン・ハイブリッド自動車(PHV)が該当します。
ZEVにはバッテリーが搭載されており、電力を外部に取り出すことが可能です。非常時の電力源としての活用も期待されています。
【長野県】ゼロカーボン戦略
建築分野での明確な目標を掲げ、地方自治体単位で施策を実施する自治体が長野県です。ゼロエミッションのうち、カーボンニュートラルに着目した施策は以下のとおりです。
目標年度 | 達成目標 |
2030年 | 全ての新築建築物のZEH・ZEB化 |
2050年 | 新築住宅:高断熱・高気密化(パッシブハウス相当)既存住宅:省エネ基準を上回る性能へリフォーム業務用建物:ZEB化→ 2050年、建物全体でゼロカーボン達成 |
ゼロエミッション実現に向けた補助金情報
政府や自治体はゼロエミッション実現のために補助金も用意しています。
国庫、および東京都・名古屋市の補助金情報を紹介します。
事業地域の補助金情報は、自治体ホームページなどをご覧ください。
国の補助金
以下は、環境省が行っているゼロエミッションや脱炭素に向けた補助金の例です。
・地域脱炭素推進交付金
・地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する公共施設への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業
・ペロブスカイト太陽電池の社会実装モデルの創出に向けた導入支援事業(経産省連携)
・民間企業等による再エネの導入及び地域共生加速化事業 (総務省・農林水産省・経産省連携)
・業務用建築物の脱炭素改修加速化事業(経産省・国土交通省連携) など
国庫からの補助金は、地方公共団体に交付されるものと、民間事業者が申請できるものとがあります。
※参照:脱炭素化事業一覧|環境省
東京都の補助金
ゼロエミッション東京でも各種補助金が用意されています。たとえば省エネ設備の導入と運用改善をめざしたい中小企業を対象とした「ゼロエミッション化に向けた省エネ設備導入・運用改善支援事業」は、2025年度だけで86.7億円の予算が組まれており、すでに申請が始まっています。
また、既存住宅の省エネ改修の補助金予算は702億円。
高断熱窓・ドアへの改修は、1戸あたり最大130万円の補助金申請が可能です。
※ 参照:クールネット東京
名古屋市の補助金
市町村単位の補助金もチェックしてみてください。名古屋市は、ゼロエミッション車の購入費用を補助しています。申請者1人につき1台まで、EV車で10万円・PHV車で5万円・FCVでは20万円の補助金が交付されます。
まとめ
ゼロエミッションは、地球環境に悪影響を及ぼす物質の排出をゼロにしようという考え方・取り組みです。実現にはコスト面やエネルギー源等の問題が山積していますが、一方で実現にむけた施策も着実に進んでいます。
産業廃棄物の排出量が全業種中3位という建設業でも、ゼロエミッションは避けては通れない課題です。設計や施工の工夫や建築物の省エネ化、予算面を含めた施主との合意形成を丁寧に行い、ゼロエミッション実現に向けて歩みを進めていきましょう。
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